本と映画とあさひかわ

書評・映画評Blogにしようと目論んでいましたが、うっかり『バーフバリ』からインド映画にハマリ、その後NetflixとAmazon Prime含め映画をたくさん見るようになりました。ありがとうバーフバリ。

1. 2017年年の瀬の一冊。『21世紀の民俗学』

 最近、民俗学の本をよく読む。

 自然の流れでなんとなく似たような本ばかり読んでいるようだが、書き出してみるとそうでもないのかもしれず、自分の読書傾向の把握と、読んだ端から忘れてしまう脳みその外部メモリとして、これからBlogに本を読んだ記録を書き付けていくことにした。

 


 さて、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA, 2017)は在野の民俗学者・畑中章宏の最新著作である。

 もとはWIRED.jpの連載で、最終章 「ありえなかったはずの未来――『感情史』としての民俗学」を書き下ろして単行本化されたものだ。

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 筆者が「民俗学のアカデミックな教育を受けたものではないけれど、感情を揺さぶられた経験をもとに、等身大の体と自分の頭で、過去の事象、現在進行形の現象について考えているつもりだ」と序文で述べているように、扱われているトピックはごく身近で、殆どが2011年以降に起こった社会現象だ。たとえば、自撮り棒。たとえば、ガルパン。無音盆踊り。ポケモンGO

 連載時ネット上で話題になった「景観認知症」「すべての場所は事故物件である」などの章にはキャッチーなタイトルと登場する小道具(「景観認知症」におけるgoogle map)の身近さ、たしかにそうだよな、と思い当たることを言語化してくれる小気味よさがある。

 この本には様々なトピックが登場するが、通奏低音のように流れ、そしてまた時々顔をだすのは記録/記憶の問題である。

 1章の「ザシキワラシと自撮り棒」(「自撮り棒とザシキワラシ」改題)には、「瓦礫の中のアルバム」という項目が加筆されている。2011年の東日本大震災や1974年の狛江猪方での多摩川堤防決壊の被災者が、真っ先に拾い集めようとしたのが家族のアルバムや写真であったという例をあげ、写真の被写体と撮影者の両者によって写真が存在することが、災害によってあらわになったとする。

2011年3月に起こった三陸津波の被災地で、自衛隊員たちは瓦礫のなかから見つかったアルバムや写真を、任務に定められていないにもかかわらず拾い集めた。また被災した人々が自宅跡に戻り、真っ先に探したのも写真だったという。公民館や体育館に集められた膨大な量の写真を、イメージを復元するため洗浄したり、デジタル化する作業が自発的かつ同時多発的におこなわれた。大きな災害のあと、家庭アルバムは丁重に扱われ、多くの日本人がこぞって、写真に写っていたはずのイメージを取り戻し、写真にかかわる人物に返そうとしたのである。
(WIRED.jp連載:21世紀の民俗学 第1回「自撮り棒とザシキワラシ」より引用)

 写真にうつっている人、うつした人の両者あるいはどちらかがもうこの世にいないかもしれないという状況の中で、写真は日常の記憶のよりどころである。

 8章「ポケモンGOのフィールドワーク」(「ポケモンGOをフィールドワークしてみた」改題)でも東日本大震災の記憶とポケモンGOの関連について少し触れている。

 

日本の国内では、2011年3月11日に起こった東北東日本大震災津波被災地における事例が、ポケモンGOというゲームのポジティヴな意義を示すものとして語られることもあった。ナイアンティックは、16年4月中旬~5月末までの期間限定で、「少しでも多くのひとに東北を訪れるきっかけをつくる」ことをテーマに、これまで停止していたイングレスのポータル申請機能を復活させた。この東北復興支援のエージェント活動は「Initio Tohoku Mission」と名づけられた。
(WIRED.jp 連載:21世紀の民俗学 第8回「ポケモンGOをフィールドワークしてみた」より引用)

 家族写真・自撮り棒・ポケモンGOと、記憶にアクセスする媒体は変わっても、土地や家族の記憶をつなぐための手段であることには変わりない。記録に残らない日常の細々したものどもをつなぎとめるのは、それを記憶するひとびとによってしか出来ないのである。

 さらに記憶にまつわるフィールドワークは続く。第5章「景観認知症」、第16章「大震災の『失せ物』」ではともに東日本大震災の被災地のかさ上げについて触れている。かさ上げ、防潮堤、集落移転。思い出せなくなる風景と、「忘れようとしても思い出せない」という筆者自身の大震災の記憶。整理のつかないまま、第16章はやや唐突に終わる。

 

 民俗学と銘打つにはややエッセイ風の強いこの本だが、体系だった思考の成果としてではなく、民俗学という視点を手がかりに、眼前にある事象の生まれた理由や来歴を探ろうという試行の途中報告として読んだ。

 

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