6. 猫と僧と詩人と美人 ― 映画『空海』
映画『空海 ―KU-KAI―』を見た。
こちらは中国公式*1の予告編(2017.11.20公開版)。日本公開版と比べると、皇帝とその周辺に起きる不可解な死―祟りの謎解きに焦点がより当たっている感じ。
www.youtube.com こちらは日本版(音声は中国語)の予告編。日本側のキャストと、楊貴妃の宴会シーンなど、陳監督こだわりの美しいシーンを存分に見せる構成。
映画の個人的見どころ、原作との違い
見どころは前評判通り、陈凯歌(チェン・カイコ―)監督の美意識に貫かれた映像と、黒猫。なんといっても黒猫。一番泣きそうになったシーンは、猫の最期。私は猫好きを自認しているが、これは絶対猫飼ってるか、好きなひとが作ったよね!なクオリティのVFXだ。素晴らしい。猫の肩甲骨の動きがさ...わかる...ってなった...。この映画の猫はちょっと、いやかなり怖いんだけれども、それでも猫をモフりたい気持ちが掻き立てられた。猫は素晴らしい。
映像はとても美しく、かなりのエピソードを圧縮したり要素を組み替えたりしてシンプルなストーリーにした上で、また原作とは別物として納得させる力強さがあった。楊貴妃役の張榕榕(チャン・ロンロン)の、楊貴妃の性根の美しさまでを感じさせるような笑顔がこの世のものとは思われない美しさ。「ありえねーだろ!」と言ってしまいそうになる映像表現も、だってこれだけ豪華絢爛な世界で美しい人だからしょうがないでしょ?という力押し。良い。
もうひとつはW主演の空海役・染谷将太と白楽天役の黄軒のナイスコンビっぷりではないだろうか。原作は近日内の記事で紹介しようと思っているのだが、原作では空海役とコンビを組んでいるのは白楽天ではなく日本からの留学生・橘逸勢で、空海が皇帝の死、そしてそれに纏わる凄惨な過去の謎に巻き込まれるかなり前から物語がはじまる。
この主演の2人が役にきちんとハマっていて、原作より情熱を前面に出してくる白楽天と、原作よりセリフも少なく静か〜な佇まいの空海、この対照がとてもいい。原作の空海は自信満々で、周りを能力で圧倒しそれを特に隠さない、というキャラだけれど、映画の空海は自信はあるがその佇まい、立ち姿、笑顔で静かに漂わせるだけ。染谷将太の異相がまたピッタリハマっている。
そして目まぐるしく話が展開する中で気持ちをぶつけ合う二人。映画を見る前にこのツイートをみて、見ていたのだけど、陳の屋敷で白楽天が「空ーー海ー!!!*2」と呼ぶシーンはもう最高だった。
https://twitter.com/ichigen_neko/status/976426871930830850
空海―KU-KAI―(原題:妖猫傳)余りにも観るべき人が二の足を踏んでる気がして力不足ながらオススメさせて!陳凱歌監督、夢枕獏が好きな方、猫好き、バディもの好きは損しませんぜ。私もそうでしたけど吹替で敬遠した方も上映館は限られますが3/24から字幕版が公開ですよ。どうですか!
— 一見猫 (@ichigen_neko) 2018年3月21日
#空海 #妖猫傳 pic.twitter.com/B3F6mAPAvV
映画化と製作の周辺
映画『空海』を見たあと、原作の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』を読んだが、原作はよく2時間におさめたな!というくらいの4巻にわたる長編。あとがきを読むと、作者の夢枕獏が17年、4誌にわたって途切れつつ書き継いできたもので、「当初は楊貴妃の話になる予定ではなかった」とのこと。
完結後にカドカワからまとめて出版されたこの長編が中国語訳(中国版タイトルは『妖猫伝』*3 )を監督が読み、数年越しのプロジェクトとして見事、一本の映画として完成させた。
監督の陈凯歌(Chén Kǎigē)はこだわり派として中国では聞こえた監督らしく、何人ものキャストが「参加する前は少し緊張した」と述べている。こだわり派の監督、私は好き。画面から圧を感じたい。
他に、空海役の染谷将太は中国語で自ら演じることを望み特訓をしていたが、やはり難しく、セリフは中国語で撮影されているものの公開版では中国人声優があてられている*4とのこと。
空海の中国語吹き替えを担当した中国語声優・楊天翔のインタビュー記事を紹介したツイートが面白かったので紹介したい。
映画の中で空海のセリフって300個(正確な単位わからん)ぐらいしかなかったんだな。普通のドラマだと1話にしか相当しないセリフを楊天翔は5ヶ月かけて吹き替えたそうな。日本で生活した中国人から日本人の中国語の特徴を聞き、中国語を話す日本人の映像を見て、日本語訛中国語をマスターしたとのこと
— 阿井 (@ajing25) 2018年1月11日
https://twitter.com/ajing25/status/951281319677513731
https://twitter.com/ajing25/status/951280298200879104
https://twitter.com/ajing25/status/951280298200879104
https://twitter.com/ajing25/status/9512802982
一緒に見たい・読みたい
www.youtube.com 公式からメイキング動画。「完璧主義者」と言われる監督が「0.02秒がさ...」とこだわりをみせるシーンや誕生日を祝われて相好を崩すシーンも。
ku-kai-movie.jp 映画『空海』公式サイト。開くと予告編が流れ、音が出ますので注意。
サイト内のプロダクションノート*5には、長安の大路を行き交う人々のシーンに毎日マジックアワーを狙って撮影、同じシーンを4〜5日もかけて取り続けたというエピソードなども。
www.youtube.com 白楽天役を演じた黄軒がインタビューに答えています。どなたかが日本語訳してくださってたのを見た記憶があるのですが、すぐに見つからないのでとりあえず中国語字幕付をおいておきます。映画のあと猫を飼い始めて、「鉄卵」と名付けました、とか言うていて可愛い。
《空海(妖猫伝)》が好き過ぎて勢いでロケ地に行ってきた@中華垢。黄軒が触ったであろう場所をさわさわしたり、同じ場所に立ってみたり、娘氏に引かれるくらいオタクぶりを発揮してきたw https://t.co/j3i5XQv6qq
— noguri (@noguri_soo) 2018年3月23日
映画『空海』ロケ地の唐城影視基地に行ってきたといううらやましいツイート。写真をまとめて上げてくださっています。い、行きたくなるやんけ...!!!
news.mynavi.jp 楊貴妃役の張榕榕の日本語インタビュー。やっぱりあのブランコのシーンは怖そうだよね...。
://twitter.com/noguri_soo/status/977050499793829888
ストーリーは原作をかなり組み替えてシンプルにしていて、話の展開はあまりにはやくて情報量がすごい!となるけれど、この映画には力がある。せっかく映画を見るなら力のある画面を見たい、という人と、猫が好きな人にオススメ。